肩関節の疾患と治療

肩関節「肩が痛い」、「腕が上がらない」等の症状がなかなか改善されずにお困りの方は、整形外科の肩関節を専門とする医師の受診をおすすめします。
肩関節の構造はとても複雑です。肩関節は大きな可動域を確保するために、受け皿になるスプーン程度の大きさの肩甲骨に対して、乗りかかる上腕骨頭は3倍程度の大きさがあります。この不安定な構造を支えるために、筋肉や腱を複雑に張り巡らせています。他の関節と比較しても複雑な構造ですので、肩関節を専門とする医師による明確な診断が必要とされるケースが多いです。

診療実績

当院での肩関節の疾患に対する診療実績は次のとおりです。

  • 【平成31年/令和元年】 関節鏡視下手術:31件 人工関節置換術:3件
  • 【令和2年】 関節鏡視下手術:38件 人工関節置換術:8件
  • 【令和3年】 関節鏡視下手術:43件 人工関節置換術:7件
  • 【令和4年】 関節鏡視下手術:31件 人工関節置換術:2件
  • 【令和5年】 関節鏡視下手術:23件 人工関節置換術:7件

原因となる疾患と症状の程度によって、投薬や注射、手術、リハビリテーション等を適切に選択した治療方針を決めています。肩の症状でお困りの場合は、整形外科の担当医にご遠慮なくご相談をお願いいたします。

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肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)

「最近肩が痛くて手が上がらない」「五十肩じゃない?」そんな会話をよく耳にします。
中高年の肩痛は一般的に五十肩と呼ばれて、40歳代から50歳代の人に多く起こります。この五十肩は俗称で、正式には「肩関節周囲炎」といいます。
肩関節の周りの関節包(関節の袋)・筋・腱・靭帯の全てを含めた炎症が「肩関節周囲炎」です。

原因は?

職業・スポーツによる使い過ぎ、長期の固定、外傷、心因性障害や糖尿病等の疾患と関係するものがあります。

どのような状態?

症状の特徴は、夜間に痛くて目が覚めてしまったり(夜間痛)、肩が痛くて腕が上がりにくくなったり、髪を結ったり服を着替えたりといった日常の動作が不自由になります。完全に症状が消失するまでは6~12か月程かかることもあれば、もっと早期に改善することもあります。

治療は?

消炎鎮痛剤の内服やリハビリを中心とした保存的治療を行います。初期の痛みが強い時は、炎症を止めるステロイド剤や関節内の滑りをよくするヒアルロン酸を関節内に注射します。症状が長期間に及ぶと肩の動きが悪くなります(肩関節拘縮)。
肩関節拘縮がある場合は関節鏡下に関節包を切離する手術を行うこともあります。

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反復性肩関節脱臼

原因は?

スポーツ中の外傷などで肩関節の脱臼が起こり、それが癖になって軽微な動作でも肩が外れるようになります。ひどくなると、スポーツ活動中だけでなく日常生活でも脱臼してしまいます。

どのような状態?

肩関節(肩甲上腕関節)内の関節上腕靭帯という靭帯が、関節窩(受け皿)から剥がれたり伸びたりしてしまって、前方のバンパー機能が失われている状態です。

治療法は?

手術によって壊れた靭帯を元に戻す必要があります。リハビリを行って肩関節周囲の筋力を強化すれば治療できるというご意見をいただきますが、リハビリでは脱臼しづらくすることまではできます。しかし、日常生活・スポーツ中によって強化した筋力以上の負荷がかかった場合には脱臼すると予想されます。

手術方法は?

従来は直視下法(メスで切開して行う手術)が行われていましたが、当院ではすべて関節鏡下での手術を行っています。関節鏡視下手術では、手術創を小さくできるだけ目立たないようにします。最小限の手術創によって正常な組織を損傷しないため、手術後の可動域制限が少ないといわれます。術後再脱臼率は5%程度です。下の図のようにテープを二重折りにして靭帯をホールドして関節窩に縫着します。

関節鏡視下手術

関節鏡視下手術とは?

皮膚に1cm程度の穴をあけ関節内を内視鏡で観察します。その他に2箇所程度の穴をあけ器具を関節内に挿入します。使用するインプラントとしてスーチャーアンカーと呼ばれる糸つきの小さなビスを関節窩に打ち込み、その糸で靭帯を関節窩に固定します。
入院期間は2~3日で退院となり、数日後にはデスクワークであれば就労・就学可能です。
ただし、術後は着脱可能な装具を3週ほど使用します。個人差がありますが、3か月で軽いスポーツには復帰できます。

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腱板断裂

どういう状態?

肩甲骨と上腕骨をつないでいる腱板と言われる筋肉が切れてしまった状態です(図の○印)。

原因は?

50歳以降に好発します。転倒して手や肘をついたり、重いものを持ち上げようとしたり、肩を捻ったりなど、外傷が原因となることが多くみられます。整形外科を受診していても、五十肩として扱われている場合も多いようです。

どういう症状?

夜間痛や腕を上げるときや下ろすときに痛みや引っ掛かることが多く、肘を脇から離しての動作がつらく力が入らないのも特徴です。

検査は?

MRIと超音波が有用です。
MRIは痛みも無く、30~40分寝ているだけで撮影が出来る検査です。レントゲン検査では、腱板ではなく骨しか写りません。しかしMRIでは腱板の状態を観察する事ができます。

手術について

関節鏡下腱板修復術

関節鏡下の手術は、小切開で手術が可能なので、正常な組織を傷めずに修復ができるというメリットがあります。
下の図のように骨に糸を使って腱板を縫着し固定をします。

関節鏡視下腱板修復手術
リバース型人工関節置換術

リバース型人工関節置換術この方法は数年前に新たに承認された新しい治療法です。広範囲の腱板断裂や、上腕骨近位端粉砕骨折などで行う手術です。通常の解剖学的な構造と反対に、肩甲骨に球を、上腕骨側に受け皿を設置します。
また、この術式の執刀医は肩関節手術の手技に習熟した条件を満たした者に限り認められています。当院の肩関節専門の医師はこの条件を満たしています。

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インピンジメント症候群

肩関節を挙上する際に上腕骨頭が肩峰下にある骨棘、靭帯に引っかかり痛みが誘発される疾患です。

検査は?

X線、CTで骨棘をみることができ、MRIで靭帯の肥厚を確認できます。

治療は?

関節鏡を用い、やすりの様な器具で削ることができます。

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肩関節拘縮(外傷性、糖尿病性)

肩関節拘縮とは五十肩などのように、肩関節の疼痛と関節可動域の制限がみられる疾患です。
五十肩とは、上記の症状が、明らかな外傷やきっかけがなく徐々に疼痛(特に夜間痛)が出現し、肩関節の動きが制限されてくるものをいいます。
このような五十肩は、痛みの強い時期は注射療法が、痛みが和らぎ関節可動域制限が主たる症状の時期には理学療法によるリハビリが奏功するため、手術に至ることは殆どありません。しかし、外傷や骨折などに続発する拘縮(外傷性肩関節拘縮)や、糖尿病に合併した拘縮(糖尿病性肩関節拘縮)の場合は、理学療法だけでは改善が見込めません。そのような時は手術を行った方が良い場合があります。
手術はすべて関節鏡視下に行ないます。5mm程度の創が2~3箇所で、硬く厚くなった関節包と言われる関節の一番内側の靭帯を一周切離する方法です。

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リハビリテーション

肩関節の専門医の管理・指示のもと、理学療法士が専門的なリハビリテーションを提供します。
肩関節の疾患である肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)やインピンジメント症候群、腱板断裂、骨折、脱臼などが原因となり、肩関節の正常な構造や運動が阻害されることによって、下記の症状や日常生活動作の制限が出現します。

  • お風呂で頭が洗えない
  • 手が背中にまわらない
  • 服が着替えられない
  • 痛くて眠れない
  • ゴルフ、野球、水泳などのスポーツができない

肩関節の専門医の診断によりリハビリテーションを行います。肩関節の症状で気になることがありましたら、まずは整形外科の肩関節専門外来の受診をお願いいたします。

肩関節リハビリテーションの内容

  • 肩関節や肩甲骨の可動域改善
  • 肩関節や肩甲骨の筋力改善
  • 肩に影響を与える体幹や足の運動
  • 自主訓練

症状にあわせて上記のリハビリテーションを行ないます。
また、自主訓練に関しては、症状や時期を考慮し、適時適量を行います。理学療法士の指導のもとに内容や回数の設定を行い、経過を確認しながら自主訓練を行います。

肩関節外来リハビリ予約のお知らせ

肩関節の手術後の患者様を対象としたリハビリテーションの予約を提供しています。
ご予約につきましては、リハビリテーション科の窓口においてお願いいたします。